令和4年(2022)4月23日朝6時過ぎ、
目覚めるとトタン屋根に水の滴る音がポトンポトンとします。
まだ雨が止んでいないのかぁと思いましたが、
しばらくするとそのポトンポトンと言う音に代わって、
小鳥たちのチュンチュン泣く声が聞こえてきました。
鳥たちが泣いていると言う事は…。
もう雨も上がり天気が回復した兆し、
そう思って部屋のカーテンを開け鳥を見ると、
すっかり雨は乾いていて明るい日差しがその降り注いでいました。
あとどの朝食、いつもならフリースペースで、
バイキング的に食事を取るそうです。
ただ未だコロナ禍、感染予防対策として、
各自提供されたものを部屋に持ち帰って食べるスタイルになっています。
今日の食事がこちら。
量は決して多くないわけですが、
ごぼうの肉巻きもイカそうめんも味噌汁もご飯も、
どれも優しく体に染みるようなとてもおいしい朝食でした。
この朝の配膳のためにやって来たホテルの管理人の方と
少々お話をしたのですが。
買い物はどうしているのか?
「大体のものは島の中で足りるんですが、
特に冬場などはフェリーが欠航すると物不足になることも」
かつて道後に住んでいたと言う私の友人に、
今回隠岐島前に行くことを話すと…。
「島前には行ったことがないなぁ」
と話していました。その話を管理人さんにすると、
「確かに島前の人々も仕事や学校などで島同士を互いに行き来していますが、
道後にわざわざ赴くと言う事はなかなか無いですね」
「買い物などでどうしても必要なときには、
むしろ松江方面、本州へ出て行きます」
との事。
昨夜はしとしと雨が降っていて真っ暗闇だった島の道。
朝の陽の光の中で改めて見てみると、
ぼんやりと少し古びた佇まいが、とてもノスタルジックで美しい!
8時20分菱浦港発、
知夫里島へ向かう内航船「いそかぜ」に乗って中ノ島を後にしました。
左手には中ノ島が、右手には昨日摩天崖を見た西ノ島が、
そして正面には今日これから向かう知夫里島。
3つの島のちょうど真ん中をいそかぜは進みます。
島前の島々を見ると中心の海を囲むように、
中ノ島、西ノ島、知夫里島があります。
実はこの島前、かつては火山だったそうで、
真ん中の部分が噴火によって吹き飛んだ後、
そこに海水が流入してカルデラ部分が海になったのだそう。
中ノ島、西ノ島、知夫里島はそのカルデラの外輪山なんですね。
いそかぜは8時47分、島前で1番小さな有人島・知夫里島・来居(くりい)港に着きました。
人口はおよそ600人。中ノ島、西ノ島に比べると、
明らかに港のスケールが小さい島です。
観光案内所でレンタサイクルを借りました。
電動自転車のスポーツタイプで、
坂道を登る時、通常の電動自転車以上にグイグイ補助が強いように感じます。
さて9時過ぎ、知夫里島・来居港を出発。
島を半時計回りに一周することにしました。
車に出会うことがほぼほぼない島の道。
隣の古海集落を抜けると道は森の中を進むようになります。
やがて牛のフンが道のあちこちに散在するようになり、
道のど真ん中に一頭の大きな牛が立っているではないですか⁉︎
「静かにやりすごせば、牛は何もしませんので安心してください」
と観光案内所の方に言われたものの!
体長が2メートル以上ある和牛の横を、
柵で仕切られているでもない横を通るのはかなりスリリング。
その大きな牛を交わししばらくすると、
今度は母牛と思われるまたまた大きな牛に連れられた子牛が3頭。
母牛は慣れた様子で脇に寄り道を譲ってくれましたが、
子牛たちは私の前をトコトコ走って前へ前へと逃げて行きます。
何とかして子牛達を抜きたいのですが…。
いくら走っても子牛達がどんどんどんどん前に走って行きます。
これではまるで私が子牛たちを追い立てているようではないですか?そうすると!
後ろの方からどっかどっかどっかどっかと何か大きな物の迫ってくる音が!
おそらく先ほど追い抜いた母牛が走って来てるのではないかと思うわけです。
きっと子牛を追い立てているような私から子牛たちを守るため、
追いかけてきたのでしょう!
「これは私が牛に追突されるのかなぁ、ヤバいなぁ」
と肝を冷やしました。
後を見る余裕もありませんでした。
来た来た来た!
何としたことか、
母牛は私をただ追い越すだけで子牛に合流。
体当たりされて大怪我、自転車も何もグッチャグチャ、
みたいな勝手な空想で頭いっぱいな私…、
ホッと一息…、と思いきや。
どっかどっかどっかどっかと別の何か大きな物の迫ってくる音が!
今度こそヤバいやつ⁉︎
どっかどっかどっかどっか………。
初めに追い抜いたあの大きな牛、
今度はお父さん登場⁉︎
「ウチの妻子に何してくれてるんだ!」
って怒ってる?今度こそヤバいヤツ?
もう恐怖のあまり後ろを振り向くことも出来ない私。
どっかどっかどっかどっか…。
お父さん?も私の横を通り過ぎ妻子に合流。
嗚呼、助かった〜。と思いきや。
一難去ってまた一難、二度あることは三度ある、
この大きな牛2頭と子牛3頭が道の前方で私の方をじっと見つめています。
えっ、今度は通せんぼ?
自転車から降りてそろそろ前進すると、
牛たちもまた先に先にそろそろ歩いて行き…、
そして振り返っては私の方をじっと見つめてきます。
「あの人間、どこまで私たちをつけて来るのかしら」
牛はそんなことを考えているのかなぁ。
やがてガードレールの切れ間から牛たちは森の中へと消えていきました。
やがて森は尽き、一面の草原へ。
そこにウグイガ崎展望台がありました。
西には西ノ島が、南には大海原が広がっているのですが、
南からの風があまりにも強く自転車ごと吹き飛ばされそうになります。
ここから私は知夫の赤壁(ちぶのせきへき)を目指すのですが、
ここでも牛馬が20頭ほど道のど真ん中に鎮座しています。
身振り手振り、ボディーランゲージで、
道を譲って欲しい、前進したいと訴えるわけですが、
彼らは私をじっと見るだけで一向に動いてくれません。
仕方ない、
私が道の脇の斜面を自転車を押し進めて牛たちに道を譲りました。
「曲がり角を曲がった先には牛がいるのではないか⁉︎」
とドキドキしながら、
またそのうち錆びたガードレールまでも牛に見えて来たり。
もう、牛中毒?
やがて電動自転車でグイグイ登り、
島の1番高いところ、標高325メートルのアカハゲ山展望台到着。
丁度雲が低く垂れこめていて、まるで雲の中に居るような展望台。
霞を通して知夫里島だけでなく西ノ島も中ノ島も見渡せます。
牛とたぬきの間を抜けてようやくたどり着いたのが赤壁展望台の駐車場。
ここから数百メートルの遊歩道の先にベンチがあり展望台も広がっています。
展望台は柵に囲われているのだけれど。
柵は低くて越えてしまって先の方まで全然いけるようになっている。
もうほんの10歩も歩けばそのまま赤壁の崖に落ちてしまう!
赤壁展望台はそんなスリリングな場所です。
昨日見た摩天崖が標高256m、
ここ知夫の赤壁が標高200m。
標高こそ幾分低いわけですが、目の前に迫る巨大で真っ赤な崖は、
まるで巨人がそこに居る様な威圧感がハンパなくありました。
高所恐怖症でなくても肝を冷やします。
知夫の赤壁を後にしてしばらく自転車を走らせると仁夫集落に入りました。
ここには知夫里島で唯一、
ランチが取れるレストラン「レストハウス神島」があります。
「今日はこちらのメニューがオススメですよ^ ^
限定品ですがまだ残っていますのでいかがですか?」
ウェイターさんに明るく勧められ鯛の餡かけ定食(1200円)をいただくことに。
木造のレストランはとても明るい雰囲気で、
これまで寒いでもない強風にあおられ牛に恐怖して来た私としてはほっと安息の地でした。
食後は知夫里島の中心・大江集落に入り一宮神社に参拝、
旅の安全を感謝しました。
ここ一宮神社は1332年、隠岐に島流しにあった後醍醐天皇が初めに上陸した土地。
境内には後醍醐天皇が腰掛けられたとされる小岩があります。
ちょっと腰をかけるのに丁度良さそう。
さて旅の最終目的地は島津島(しまつしま)です。
島津島には車両が渡れない幅2m足らずの橋がかかっていて、
これは放牧されている牛が行き交うための物。
橋を渡り、島津島の海岸沿いに整備された遊歩道を行く。
ここはヒタヒタと内海の穏やかな波に現れる海水浴場があります。
海水浴場からもう少し行くと外海が見えて来て、
その浜に出ると強風にあおられて大波が海岸を洗っていました。
島津島から来居港へと戻る途中に湧水があり、
たぬきの像の口から湧水がトウトウと流れ出ています。
ここで喉を潤し、14時過ぎ観光案内所に帰り着きました。
自転車を確認してもらい返却。
「(あまりの多さに)牛のうんこだけは避けきることが出来ませんでした」
と言うと、
「そうでしょうそうでしょう、大丈夫です」
と係りの方は当然と言う様な笑顔を浮かべて下さり電動自転車無事返却。
しばし時間があったので、
島の様子を尋ねてみました。
「島には日用品などを購入できる商店が2件あります。
ただし物価が高い!生鮮食品などはなかなか手に入れにくいですね。
だから島の人たちは自ら漁や釣りをして魚を調達しているので、
島には魚屋と言うものがないのですよ。
あと野菜などは自分ちの畑などでだいたい栽培してます。」
来居港→古海(うるみ)集落→うぐいが崎→赤ハゲ山展望台→知夫赤壁→仁夫集落→レストハウス神島→天佐志比古命(一宮)神社→島津島→河井の地蔵さんの水→来居港
走行距離26.6km、所要時間4時間15分、平均速度13.8km/h、最高速度45.5km/h、バッテリー残量25%
隠岐の中でも最も小さな有人島・知夫里島。
今日1日、ほんの数人の人と、
一生かかってもなかなか見ることができないほどの野生の牛たちに出くわしました。
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